「この町ではひとり」(山本さほ) 知らない街で人生リセットの苦闘
人生の節目節目で辛いことから逃げ出したくなった時に、知らない街で人生をリセットしたくなる時がある人が多いと思う。
例えば進学や就職などで思うように行かずに、結果として知らない街で生活を始めることはよくあることだ。
「この町ではひとり」は、美大受験に失敗して横浜から神戸でひとり暮らしを始めた著者の1年の生活を描いたエッセイ漫画。
前作の「岡崎に捧ぐ」が小学生から漫画家になるまでの約20年を描いていたが、「この町でひとり」はその中で、山本さんがもっとも苦しかったであろう時期を描いている。
正直ハッピーな話でもなく、ギャグというには生々しく、辛い日々をそれほど読者に暗い印象を与えることなく描いているのは著者の力量と言えるだろう。
しかし、19歳で関東から、ひとり神戸でフリーターするのは結構大変だ。
漫画に出てくる神戸人はとてもガラが悪く悪質な人間に描かれている。実は私は初めて知ったのだが、神戸人は結構ガラとネット情報でも出てくるくらい個性のきつい人が多いようだ。全員が全員そうではないだろうが、たまにそのような個性の強い人にであうと世間知らずの19歳の関東の女の子には耐えられなくなるくらい辛いだろうなと想像できる。
ただ、世間知らずの未成年は、付き合ってきた人間の幅がどうしても狭いので、対応力に限界があるだろうな。そして、他人からの色々な言葉をネガティブに捉えて凹んでしまうことも多いだろうと思う。
こういった経験を通して対応力をつけていくのだろう。。このような体験は多かれ少なかれ、いろんな人が経験する通過儀礼のようなものかもしれないですね。
私、個人も経験したことは違えど、様々な街で新しい生活を何度か初めていく中で経験値をつけてある意味たくましくなったと言える。
自分には子供が二人いるけど、彼らもそのうち知らない街で通過儀礼的に人生リセットしていくんだろうと思うと、複雑な気分になる。本当はあまり辛い思いもさせたくないけど、人間社会は学校で習うような綺麗な社会でもなくむしろ理不尽さ・不条理さに溢れているのであるのだから、早いうちに経験させていくのも必要かもしれない。
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