1970年代生まれの外資系IT企業エンジニア(関西在住))です。
様々な人々の叡智からの学びを通して、経済的独立の実現を目指します。
日々の思考の糧となる書籍を紹介します。


東浩紀「ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる」 他人の成長から何を学べるか

本書は、若いころから文壇やメディアで活躍されていた東浩紀氏がこの10年あまりアカデミアや既存の文壇とは異なる形の「ゲンロン」という事業を起業し、その経験を語り下ろしたものである。

起業家の語り下ろしは大抵は自慢話だったりすることが多いし、成功した事例についても単に運がよかっただけで、反復可能性が低すぎて、個人的には参考にできないことがほとんだ。

本書も、基本的にその例に漏れることはないかもしれないと思いながらも、手に取って読んでみたのは、同じ1971年生まれの同世代の経験から、上の世代や下の世代の経験談とは異なる、同じ時代を同じ年代で経験したものだから得られるものがあるのではないかと期待したからだった。

内容は本当に期待どおりというか、東氏が正直に語っている失敗を通して、自分も自分の甘さについて考え直すきっかけを与えてくれた。もちろん東氏と自分とで境遇もちがうし、失敗の内容は全く異なるけど、それまでの自分の生き方や考え方が持っていた甘えや歪みみたいなものが結局自分と周囲の人間の間に結果として失敗を誘導してしまうという構造は共通していると思う。

 

例えば、

経営 状況 が どんどん 悪化 し、 社内 の トラブル 処理 に 明け暮れ た 時期 でし た。その 原因 は、 ひとこと で いえ ば ぼく が 第 1 章 で 語っ た 失敗 を 繰り返し たこと に あり ます。 それ は、 なに か につけ 面倒 な こと は ひと に 任せる という 失敗 です。 ぼく の 意識 と ゲンロン の 実態 には 大きな 落差 が あり まし た。

 

 についても、会社の中の複雑なシステムや構造の中で、面倒なことを人に押し付けてしまって、結果としてそれが長い目でよくない結果をもたらすといったことは、実はいろんな職場でよくみられることであろう。

 

また、税理士に退社されて泣く泣く領収書の整理をするなかで、デジタル情報だけでは体得できない「経営の身体化」に気づくエピソードは、デジタル化というキーワードで安易に情報技術にたよることによる弊害を指摘している部分は、経営という観点では非常に本質的に思える。

 

後半で東氏のもっていた「ホモソーシャル性」(要は同じ傾向を持つ同質な人々による組織)についての反省も、表面的にはダイバーシティといった言葉よりも、実感をもって理解できる。

 

こういった一つ一つの反省やエピソード全体を通して、東氏が図らずも成長していった過程を通して、実は自分も自分の甘え・弱さ・歪みに対して対峙していくことへの勇気をもらったような気がする。(と書くと少し青臭くて恥ずかしいけど・・・(笑)